吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

深夜の再放送ドラマ『いつ恋』

オリンピック編成の余波でしょうか、今、深夜に名作ドラマの再放送をやってくれています。

関西では水曜の深夜にいつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう(2016年フジテレビ)の再放送をしています。

5年経った今見ても、とってもいいドラマです。

 

リアリティある「暮らしのことば」の脚本

脚本家の坂元裕二は、『カルテット』や『大豆田とわ子と三人の元夫』などで都市生活者のオシャレな会話劇を描く作品で有名ですが、この『いつかこの恋を~』は違っています。

登場人物のひとりひとりが、どこで生れてどこで育ったのかがちゃんとわかるように「暮らしのことば」で喋るのです。

そのことによって、東京で生活している若者たちの「軽やかに見える生活」の背後に在る「本当の暮らし」が浮かび上がってきます。

会津生まれの練(れん)、大阪生まれの音(おと)、福岡出身の木穂子(きほこ)。

それぞれが心情を吐露する時に口にする「暮らしのことば」が、このドラマでの人生のリアリティを成り立たせているのです。

 

先日観たのは第5話でしたが、森川葵が演じる市村小夏の吐く「な~んで話変えんだべな。楽しいってオガシクネ。うわべばっか楽しそうなふりして嘘バッカ」という会津福島ことばが強烈に胸に響きました。

これは、1991年に『東京ラブストーリー』で華々しくデビューして以来、トレンディドラマの旗手として「東京の若者たち」の恋愛生活模様を「無頓着な東京語」で描いてきた坂元裕二が、25年の時間を経て「東京」を相対化する視点を持つに至った証だと僕は見ています。

 

まだ観ていない方に、これからの放送で必見のオススメは第7話です。

有村架純演じる杉原音が、福島の猪苗代湖の近くに暮らす曽田練のジイちゃん(田中泯)の人生最後の数日間の「暮らし」を、残された数枚の買い物レシートから読み解いてゆくシーンがあります。

このシーン、日本のドラマ史に残る名場面!だと僕は思っています。

ぜひ、ごらん下さい。

 

いいキャスティング! 

もう一つの見どころ。

2021年の現在から見て、2016年1月期時点での俳優陣の並びがスゴイんです。

 

女優陣は、主役の有村架純NHK朝ドラ2013年の『あまちゃん』で小さな役で出演していた所から大ブレイクしていて『いつかこの恋~』では堂々たる主役です。

その対抗役が高畑充希ですが『いつかこの恋~』の放送時点ではまだブレイク前だったんですね、この後の2016年4月からのNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』で主役を張ります。

そして、なんと2018年のNHK朝ドラ『半分、青い』で主役を張る永野芽郁が『いつかこの恋を~』では端役で出演しています。

もっと小さい役で松本穂香も出ています、後に『この世界の片隅に』で主役を勤めました。

後々、ゴールデンタイムのドラマの主役を張るようになる女優たちが『いつかこの恋~』にたくさん出てるんですねぇ。

 

男優陣もすごいです。

主演は高良健吾ですが、2番手3番手に坂口健太郎高橋一生

今や、それぞれが1時間ドラマの主役を張るメンバーです。

 

こうして見ると、『いつかこの恋を~』のキャスティングプロデューサーの伯楽眼の素晴らしさに驚きます。

作り手に大拍手!です。

 

2016年の放送時には視聴率的にあまり高い評価を得ませんでしたが、数年の時間を経過して視聴することで、この作品の素晴らしさがちゃんと評価できるのではないかと思います。

日本人のテレビ離れが言われるこの頃ですが、やはりテレビはまだまだ色々な可能性を持つ「表現メディア」だと、僕は思うのです。