朝ドラ『半分、青い。』に、すっかりはまってもうたわ!
今期の、NHK朝ドラ『半分、青い。』岐阜篇に、はまってまいました。
いいです、いいです、ホントに素敵です。
4月の後半が、なんだかんだと忙しかったので、溜まっていたドラマをGWにまとめて見たんですが、『半分、青い。』で泣かされました。
そして、何度も「うまい!」「これはスゴイ!」と唸らされました。
脚本・演技者・演出陣、に拍手!です。
テレビの演出やプロデュースを35年やってきたので、バラエティを見てもドラマを見ても、どうしても業界人ぽく創り手の立場から見てしまうのですが、よく出来た番組はそんなことをすっかり忘れさせてくれて、単なる一人の観客にさせてくれます。
『半分、青い。』は、創り手の意図や狙いがわかった上で、泣けて笑えるドラマです。
「母」なるもの
まず、圧巻のシーンを一つ。
5月3日(木)の放送シーンから。
左耳が聴こえないというハンディを背負っている娘の鈴愛(すずめ)の東京行きを許す、というシーンで、母親の晴(はる)さんが言うセリフです。
「あーたは、楽しいばっかりで、いいねぇ。
(ハァー、とため息をついて)おかあちゃんは、
(スン、と鼻をすすって)おかあちゃんは淋しくてたまらん。
あんたは、もう、18かも知れんけど、おかあちゃんの中には、
3つのあんたも、1つのあんたも、13歳のあんたも、
全部いる、
まだいる。
(少し、間があって)
おとなや、もう大人や、言われてもーー」
(晴さん、両手で顔をおおって、足早に茶の間を出ていく)
晴さんを演じる松雪泰子、渾身の演技です。見ていて、泣かされました。
母親というものは、こういうものなんだろうなぁ、と男の私はしみじみと思いました。
で、このセリフ!です。
「全部いる、」
「まだ居る。」
これ、書けないですよ。こんなセリフは、なかなか書けるものではありません。
聞いてて、私、痺れてまいました。
脚本家・北川悦吏子の、脚本家人生に残る会心の名台詞、だと思います。
これは、北川悦吏子さんその人が、持病に悩まされながら生きてきて、「こどもは産めないですよ」と言われていながらも奇跡的にこどもを授かった、という事実を知る時に、まさしく「人生で書いたセリフ!」なのだ、と感嘆してしまいました。
2018年テレビドラマ最優秀演技賞は松雪泰子!
もう一つ、これも母親・晴さんのセリフ、です。
それは、4月12日(木)の第10話でした。
小学3年生になった娘の鈴愛(すずめ)が、おたふく風邪ウイルスの感染からくる「ムンプス難聴」で、左耳を失聴してしまい、そのことを医者から告げられる場面、です。
医者「しばらくはバランスが取りにくくなる。たとえば、自転車や階段など、日常生活に気をつけてあげてください。ただ、これは、やがて時がたてばーーー」
晴 「(はァ、と息を出して)なんでぇー、(ヒュッ、と息を吸い)なんで、あの子はこんなことになったんですか?」
医者「ですから、おたふく風邪のウイルスがーー」
晴 (そのセリフ尻にかぶせて)「そんなこと聞いとらん!」(じっと唇を噛みしめる)
医者「おかあさん、実は、片耳聴こえない患者さんは結構いらっしゃいます。
しかし、みなさん頑張ってーー」
晴 (そのセリフ尻にかぶせて)「みなさんの話はどうでもいいっ!」
(顔を、少し上げて)「わたしの娘は、ひとり、です!」
この場面の松雪泰子さんに、僕は2018年のテレビドラマ最優秀演技賞を差し上げたいと思います。
ここは、「かぶせ」というセリフ発声で、とても難しいのです。
相手のセリフの言い終わる寸前に、自分のセリフをギュッと言い出さなければいけない。
早すぎたら単なる身勝手になる、遅すぎたら気持ちが乗らなくて嘘くさくなる。
相手のしゃべりに、自分の身体の息吸いを合わせながら、オフビートで声を出します。
まさしく、0コンマ何秒かの間(ま)の芝居です。
長い間やっている俳優さんでも、なかなか決まらない演技なんですね。
で、松雪さんのこの演技は、ホントに素晴らしいものでした。
もちろん、松雪さんのこの名演技を産んだのは、北川悦吏子さんの脚本です。
「みなさんの話はどうでもいいっ!」
これも、簡単に書けるセリフではありません。
母親のエゴイズム、そうですよね、本当の愛情は個別的で特殊でエゴイスティックなもの。
今後の東京篇にも期待
『半分、青い。』は、健常者として生まれた楡野鈴愛(にれのすずめ)という主人公が、小学3年の時に左耳の聴力を失いながらも、おさななじみや家族に囲まれて明るく成長してゆく、という物語です。
これ、日本のドラマとしては、特にNHKの朝ドラとしては大変に難しい設定です。
と言うのは、病気や障害というものは、本当に個人的なことがらで、当事者やその家族でないと理解できないほどの複雑な感情を伴うもの、だからです。
決して、一般論では語れないし、語って欲しくないものです。
そして、この設定でドラマを進行してゆく背景に、北川悦吏子さん自身が聴神経腫瘍のために人生の半ばにして左耳の聴力を完全に失った、という事実があることも書いておきます。
もちろん、実人生での出来事と、表現作品の出来の良し悪しとは別のものですが、『半分、青い。』は、脚本家・北川悦吏子の実人生を畑にした素晴らしい表現産物です。
通常の朝ドラなら、子役時代を1週間にして大人の俳優にスライドさせるのですが、『半分、青い。』では、それに2週間12話をかけました。
それは、小学3年生で左耳が聴こえなくなった、という主人公のそれまでの生活をしっかりと描いておかないと、それ以降の生活がリアルに描けないのだ、という演出陣の考えの現れに他なりません。
そして、ややもすればシリアス一辺倒におちいりがちな「病気もの・障害もの」を、生活感あふれる「岐阜ことば」でリアリティを担保し、軽やかなコミカルさで明るく味付けしています。
難しいテーマ設定に取り組んでいるNHK朝ドラ班のスタッフに敬意を表するとともに、東京篇でも、笑いと涙を運んでくれるよう、エールを送りたい、と思います。