吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

台風19号の情報をテレビは事前にどれだけ伝えたか

大きな被害をもたらした台風19号。

今夜16日(水)も、民放の各テレビでは11時台のニュースで、その被害状況を伝えている。

しかし、その報道姿勢は果たして「公器」として適正なものだろうか。

 

そんな疑問を抱いていたところ、メディア・コンサルタント境治さんが、「通常編成を飛ばして、台風を伝え続けたNHK」との論稿をブログに上げてくださった。

news.yahoo.co.jp

一読して、「そのとおり」と思い、触発された私の考えを書く。

 

 

12,13日の台風情報

まず、私は12日(土)朝から13日(日)の夜にかけて、ほとんどテレビをつけっぱなしで台風情報を見ていた。

それは私が大阪に住んでいるにもかかわらず、今回の台風が並みはずれて規模が大きくて、近畿にもその影響が少なからずはあるだろう、と予測していたからであり、去年の台風では2日間にわたっての停電を経験していたからであり、更にはさかのぼって1995年の「阪神淡路大震災」をテレビマンとして伝えた体験があるからである。

 

で、12日、13日の2日間テレビを見ていたのだが、まともに台風情報を伝えてくれていたのはNHKだけだった。途中で何回もチャンネルを回してみたが、民放テレビは既存のニュース枠と報道番組枠では台風情報を流していたが、それ以外はほとんどが通常編成のバラエティやスポーツ番組をやっていた。

 

この間の、「台風情報」に費やされた時間配分を、境治さんの論稿は明確に図表であらわしてくれている。それを見て、「あぁ、やっぱりそうだったんだ」と納得した。

境さんの解析によれば、NHKは12日(土)の朝から13日(日)の20時にかけて、「通常編成を飛ばして、台風を伝えつづけていた」のである。

民放の中では、テレビ朝日TBSがある程度の時間を割いていて、日本テレビとフジは少なく、テレビ東京はほとんど伝えていなかった。

やはり、というか、さすが、というか、NHKはなんだかんだと言っても「電波は公共の財産」であり、「放送は公益に資するためのもの」という電波使用の原則をよく理解している電波事業者だと改めて思った。

 

気象庁の情報発表を十分に報道しないメディア 

そもそも気象庁が、10月9日から「特別な大きさの台風」とか、「これまでに経験したことのないような大雨」という異例の表現情報を流し続けてくれていたのである。

伊勢湾台風狩野川台風や、それ以上だとも言っていたのだ。

それを受けてNHKは、「まだ風や雨がひどくならない金曜日までに準備を」との情報を、数日前から伝え続けた。

ネット上でもネットユーザーらが気象庁の発表より前から大型台風発生の可能性を指摘していた。

それに対して、民放のテレビ局はどれだけの情報を国民に伝えたであろうか。

台風が最も接近した12日(土)の夜のゴールデンタイムにおいても、民放は通常のバラエティやドラマやスポーツ番組を放送し、申し訳程度のL字画面で台風情報を流していた。

 

電波は国民共有の財産である 

営利企業である民間放送といえども、テレビ局の事業は「国民共有の財産である電波」を特権的に使うことを許された免許事業者である。

放送は、あくまで「公共の利益に資するため」と放送法にも明記されている。

こんな、「未曾有の天災」が予測される時こそ、テレビは「国民のための電波使用」という大原則の精神を発揮すべきではなかったのか。

 

それなのに、である。

台風が去って、大きな被害が明らかになってきた後で、民放テレビはその被害状況をこれでもかこれでもか、と伝える。

もちろん、被害を報道することにも意味はある。

それは、次なる事態に備えてであり、次の被害を少なくするためであろう。

しかし、被害状況にあれだけの人員や機材を投入するなら、なぜ事前にもっと大切で緊急な情報を伝えることに力を注がないのだろうか。

歴史にIF(イフ・もしも)はないが、これまでにないほど大きな台風が襲来する直前の12日に民放テレビの各局が、通常番組を飛ばしてその迫りくる台風情報を伝えてくれていたら、視聴者の避難行動を促して今回の被害のいくらかは防ぐことができたのではないだろうか。

 

被災を娯楽のように消費するテレビメディア

そして、昨日今日の民放テレビのニュース番組や情報番組では、あいもかわらず被災者に対して、「今のお気持ちはいかがですか」と、神妙な顔をしながら無遠慮に質問する記者やアナウンサーが居る。

映像は、刺激的な画像を切り取ってくりかえし、おどろおどろしいBGMまで付けている。

それは、「世界仰天ニュース」を作っている表現姿勢と同じ心根である。

現在の日本の民放テレビは、残念ながら「災害」を「他人事の情報」として消費している、と言わざるをえない。

 

さらに、言い訳のように「寄付の呼びかけ」を行っている。

それを言うくらいなら、民放テレビ局は、12日13日に通常放送をして得た収益(一日平均で5億~7億)をこそ率先して寄付してしかるべきだろう。

 

 

現在の日本の民放テレビは、あの「阪神・淡路大震災」からも、「3・11東日本大震災」からも、何事も学んではいない。

すべての民放の経営者は、社長から編成担当取締役から編成局長・報道局長に至るまで、もう一度「放送のあり方」を自問すべきである。

 

日本人の「テレビ離れ」を招いているのは「テレビ局自体」である、と私は思う。