吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

期末期首の特別ドラマ――『ひよっこ2』と『僕が笑うと』

3月半ばから4月半ば、にかけて、テレビは「期末・期首編成」と称してゴールデン・プライムタイムに単発の特番を並べたてます。
昔は、せいぜい4月の番組改編をはさんで前後1週間ずつくらいだったのですが、今ではおよそひと月間にわたっているので、いったいどれが本当の「特番」なのかわからない状況です。
まぁ、これも、どこかの局が先行して始めた編成に他局が追随しての結果なのでしょうが、逆にこういう状況になると、「期末・期首」を短縮して、レギュラー番組を大切にする、という編成を組むことがかえって新しい戦略になる、と思うのですが。

はたしてどの局が先陣を切って「期末・期首」編成を変えるのか。
元テレビマンとしては、うがった興味を持ちながら、ザッピングを続けています。

 

とは言いながら、「期末・期首」にはふだんは見られない「ドラマ」が見られるのが楽しみです。
「テレビの中のことば」を好奇心のテーマとしている私にとって、とても素敵な「ドラマ」があったので、ちょっと書いてみます。

 

日常性を大切にしているドラマ――『ひよっこ2』

NHKひよっこ2』(3月25日~28日 全4話 午後7時30分~8時)
2年ぶりに、「んだねぇ」や「なかっぺよぉ」などの茨城(いばらき)弁が聴けました。
いいですねぇ、やっぱり「生活ことば」は。

 

2017年4月~9月にかけて放送された朝ドラ『ひよっこ』の2年後を描いた続編もの、です。
岡田惠和さんの脚本は、「日常性」をとても大切に考えていて素晴らしい、と思います。
けっして派手な事件や出来ごとがあるわけではない「日常生活」、その中で泣いて笑って生きている民衆の暮らし。
それを捕えて表現するために絶対に欠かせないのは「暮らしのことば」です。
それは短絡的に「地方なまり」を大事がる、ということではありません。

 

今の日本のテレビドラマの作り手たちの多くがこの点について鈍感です。
岡田惠和さんは、数少ない「ことば」に敏感で繊細な作家、だと思います。
演出家たちも、このことを良く共通理解しているのでしょう。

 

岡田惠和ドラマツルギー

今夜の第3話では、主人公みね子(有村架純)の妹の大学進学を巡るシーンで、
「女の子も大学に行く時代だっぺ?」
「それは関係なかっぺよぉ」
その合間に、1960年代から70年代にかけての「高度経済成長」の社会的動向と庶民の暮らしの揺れ動きをしっかりと語らせています。

 

また、みね子の同級生で女優になった助川時子(佐久間由衣)が、東京のスタジオで共演俳優から「君には茨城なまりがある」と馬鹿にされて、ふるさとに帰ってきたシーン、
「よーし、今からみんなで標準語でしゃべっぺ!」
軽い笑いに見えますが、実はここには「ヒト・カネ・モノ・ことば」の全てを「東京一極集中」させることによって成立してきた戦後70年の経済的繁栄の暗部が潜んでいます。

 

岡田さんは、
「あれからたった2年、みね子たちの日常のドラマです。
 みんな元気です、みんな相変わらずです。そんな『相変わらず』な幸せなドラマを書いた」
と語っていますが、優れた社会批評眼に裏打ちされたドラマツルギーに拍手!です。

 

中味と劇伴――宮川彬良の音楽

そうそう、『ひよっこ』では、宮川彬良さんの音楽も忘れてはならない要素です。
アップテンポの軽やかさ、ピアノソロの感情的なバラード、使い分けが秀逸です。
ドラマを作っていて、これほど中味と劇伴が見事に合うことはめったにありません。
明日の、最終第4話が楽しみです。


子役の関西弁がよかった――『僕が笑うと』

もう一本。
『僕が笑うと』(3月26日・火曜日 夜9時30分~11時20分)
カンテレ開局60周年のドラマです。

 

めいっぱい泣かせてくれました。
ドラマで視聴者を泣かせる、のは易しいようで結構むつかしいのです。
どうしても、不自然な演技や大仰なセリフを使ってしまいがちになる、ので。

 

この点で、『僕が笑うと』は、とても自然なセリフに溢れていました。
登場人物達の使う「関西弁」が、素直に入ってきました。
特に、子供たちのセリフに、無理が感じられませんでした。
脚本と演出と演技がうまく噛み合っていた、のだと思います。

 

脚本は、尾崎将也(おざきまさや)さん。兵庫県の出身。
NHKの朝ドラ『梅ちゃん先生』を書いた人です。
演出は、カンテレ社員の三宅喜重(みやけよししげ)さん、大阪府の出身。
映画の『阪急電車 片道15分の奇跡』を監督した人です。

 

在阪局カンテレの周年特番ですから、ドラマの舞台は当然のことながら大阪。
ワンカット目を見たら、「豊中」のスーパーテロップ。
なんと、私の住んでいる町なのです。これで釘付けになってしまいました。

 

とにかく関西弁が自然だった

で、戦時中の大阪・豊中を舞台に、身寄りのない子供たちを引き取って育てた夫婦の物語り。
「浩太、おらへんねん」
「なんや知らんけど」
「楽しかったなぁ、こんな時こそ、みな一緒におらんとな」
主演の夫婦、井ノ原快彦(いのはらよしひこ)と上戸彩(うえとあや)のしゃべる「関西人の生活ことば」が、なんらの違和感なく耳に入ってきました。
二人とも、東京の生まれ育ちだと思うのですが上手でした。

 

日本のドラマは「ことばの演出」が下手

そして、特に素晴らしかったのが「子役たち」でした。
日本のテレビドラマや映画は「こども」を使うのが下手なんです。
それは、「こども」たちに、不自然な「標準語・東京語」を使わせる演出が悪いのです。
この点、『僕が笑うと』では素直な「大阪のこどものことば」で演じていました。
もちろん、設定が戦前・戦中の大阪なので、そこで暮らしている「こども」である、ということを考えれば当然なのですが、なかなかそれが難しい事なのです。

 

子役・渡邉蒼くん、お見事!

中でも、長男の浩太を演じた俳優の「渡邉蒼(わたなべ・あお)」くんがうまかった。
渡邉蒼くんは、昨年のNHK大河ドラマ西郷どん』で、鈴木亮平演じる西郷隆盛の子供時代の小吉を演じた俳優さんです。
「おっ、どないしたんや」
「ホンマもんや」
また、「お父さんは戦地で闘っている兵隊さんたちより、アメリカ人のほうが大事だと言うんですか」との、軍国少年としてのセリフ。

 

西郷どん』で薩摩弁を、『僕が笑うと』で関西弁を。
演技にとって最も大切なことは、その役柄の人物が使う「ことば」である、ということを早くから身体に沁みこませた渡邉蒼くんのこれからが楽しみです。

 

この意味で言えば、残念ながら「ドラマの枠付け」として登場していた現代劇部分の俳優さんたちは「子役たち」に負けていた、と言わざるを得ません。

 

絶妙のタイミング――音響

さて、「泣かせるドラマ」にとって大切なのは音楽です。
話の内容やセリフもさることながら、それ以上に音楽は人の感情を動かします。
『僕が笑うと』では、定番ではありますが、弦楽器の繊細な音色がいいタイミングでかぶさって涙線を刺激してくれました。
実は、これ、テレビや映画を作る人間には良くわかるのですが、「音の出」が1秒早過ぎても、1秒遅過ぎても、感情移入できないものなんです。
「音響担当」スタッフさんの仕事に拍手!でした。

 

いやぁ、映画もいいです、テレビドラマもいいです、ねぇ。
この後の「期末・期首」で、また素敵なドラマに会えることを楽しみにしてま~す。