吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

NTV「ニュースZERO」の有働由美子さん

日本テレビの夜11時台のニュース「ニュースZERO」が、NHKアナの有働由美子さんを起用して、この秋編成の大きな話題になっています。

しかし、残念ながら今日までのところ、「新生・ニュースZERO」はまったくの期待外れ!です。

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この理由は、有働由美子さんが力不足なのではなく、「新生・ニュースZERO」を制作している日本テレビ報道局のプロデューサーやディレクター達の思考力不足にある、と私は見ています。

つまり、有働由美子という出演者のキャスティングと、「新生・ニュースZERO」という番組のコンセプト設定との間に、制作者たちの「思考の闘い」がまったく感じ取れない、のです。

 

 視聴率の低迷は有働が原因か?

10月1日(月)から始まった「ニュースZERO」を、2週間ほど見たかぎりでは、有働由美子さんは、かつてのNHKあさイチの時と同じようにふるまっています。

明るい笑顔で、少し早口で、多くの人が知る「これまでの有働由美子です。

これは、おそらく出演依頼時に、日本テレビの制作責任者から「これまでどおりでいいんですよ。有働さんの持ち味をそのまま出してください」と口説かれたのだ、と推測できます。

問題はここにあります。

高額なギャラを払って獲得した出演者に対して、作り手の方からの「演出がかかっていない」、つまり「表現演出上の闘いがなされていない」のです。

キャスティングだけで終わっている、ということです。

人気者のキャラクターをキャスティングして、確立されたそのイメージに合わせて「番組の中味」を変えよう、としているのです。

こういった「キャスティング先行の番組作り」が日本のテレビをつまらない物にしている最大の原因です。

ドラマの衰退も、バラエティの衰退も、また日本映画の衰退も、みな同じことを繰り返してきました。

 

「『あさイチ』の有働」の成立条件 

朝の8時15分から10時まで放送されるNHKあさイチ」と、夜23時から24時まで放送されるNTV「ニュースZERO」では、根本的に「枠」が違います

見ている視聴者の生活時間が違いますし、テレビに求めている内容が違います。

あさイチ」での有働さんが成立していた理由は、その前枠として4時30分から8時にかけて「おはよう日本」という、きちんとしたニュース番組があったからです。

出勤前、登校前の日本人にとって欠かせないニュース情報が送り出されたのを前提にして、その後で、ひと息ついた家庭内テレビで、庶民的目線での「ニュース崩しの有働由美子」が成立していたのです。

 

夜23時台に求められるニュースとキャスター有働由美子とは?

しかし、夜23時台のニュースは、その前枠として、夜19時台・20時台・21時台・22時台、とほぼ4時間にわたってバラエティやドラマが続いた後で、多くの人がその日の終わりに「今日一日の出来事」を知りたいと思って見るものです。

まずは、「しっかりしたニュース」を見たい、と思ってテレビを付けているのです。

何よりも「しっかりとしたニュース」があって、その上で初めて「有働さんなりの崩しや軽口」が成立するのです。

それなのに、「新生ZERO」は、政治・経済・事件についての報道が、時間も少ないし内容も薄いので、有働さんの軽口や笑顔はとても軽薄なふるまいにしか見えません。

私を含めて視聴者は、「あの有働さん」が、複雑な国際政治や国内政治や経済動向や社会的事件をどれだけ真剣に、かつ分かりやすく伝えてくれるかを期待していたのではないでしょうか。

 

 視聴者の正直な反応としての視聴率

ちなみに、昨日15日の放送内容で言えば、「消費税10%上げ」を巡るニュースでは、櫻井翔くんのボード解説がもっともニュースらしく、データ数字の理解もゆき届いていて、真剣さもあり良く伝わりました。

それに対して、有働さんの「街頭インタビュー」は、戸越銀座での人気者の顔見せにしか見えず、完全に不要なVTR素材でした。

せっかく櫻井くんが「感情的な増税反対に走ることなく、社会保障など全体的な文脈で消費税を考える」という視点を投げかけたのですが、そこから有働さんなりの論点指摘や論説委員のわかりやすい解説には至らなかったところに、「新生・ニュースZERO」の限界が見てとれました。

初日、2日目と10%あった視聴率が、日を追うに連れて下がっているという事実は期待していた視聴者の正直な落胆を表わしています。

 

 「ZERO」の作り手がすべきこと

「ZERO」の作り手たちは、既に出来上がった「有働由美子」というキャラクターを起用したことで思考作業を終わらせずに、彼女の個性と「ニュース報道」という表現内容との格闘を続けて、「ZEROの有働由美子」という新しいキャラクターを産み出すことに力を注ぐべきだと思います。

いみじくも、初日OAの後に「月曜から夜更かし」でマツコ・デラックスが突っ込んだように、「白い丸のセット」や「丸モニター」「丸ワイプ」などが目立つということは、それだけ番組本旨としてのニュースの内容がお粗末だということの証明に他なりません。

 

期待できるキャスター有働由美子

有働さんは、日本のテレビでは久しぶりに現れた、庶民の生活感覚を感じさせるキャスターです。

思えば、櫻井よしこさん以来、日本に「アンカーウーマン」と呼ぶべき女性キャスターが出ていません。

安藤優子さんは、今や見る陰もなくワイドショーの廻し役に堕してしまいました。

久和ひとみさんは早逝されました。

 

 オススメ映画『アンカーウーマン』

テレビのニュースキャスターを描いたアメリカ映画の名作に『アンカーウーマン』という作品があります。

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これは実在の女性キャスターであるジェシカ・サビッチという人をモデルにした映画です。

ミシェル・ファイファー演じる女性キャスターと、彼女を育てるバード・レッドフォード演じるプロデューサーの、「ニュース報道」を巡る格闘と愛情の物語です。

有働由美子さん、「ZERO」の制作スタッフの皆さん、是非『アンカーウーマン』を観てください。

そして、テレビにおける「ニュース報道」とは何か、ニュースキャスターとはいかにあるべきか、を初心に帰って考えてみることをお勧めします。