吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

日大アメフト部の監督・コーチの記者会見、について

日大アメフト部の悪質タックル問題については、新聞やテレビやネット上で既に多くの人が発言をしていますが、現在大学の教壇に立つ者の一人として、私は大変な怒りを感じており、このブログで私の考えを述べます。

 

結論を先に言うと、日大アメフト部の内田監督と井上コーチ、ならびに12人のコーチは大学教育に携わる資格もないし、およそ教育に携わるべきではないし、即刻退場すべきだと、私は考えます。

そして、今、大学教育に関わっている者はそれぞれの立場からこの問題に対する自分の考えを明らかにすべきであり、特に日本大学で教員の立場にある人たちは自分の考えを明らかにする責務がある、と考えます。

ことは、それほど大きな問題だと思うのです。

 

内田監督と井上コーチの記者会見

23日に行われた内田監督と井上コーチの記者会見での発言が、どれほど不誠実で愚劣なものであったかは、もはや誰の目にも明らかです。

ここでは、私なりの解析を付け加えます。

私は大学で、「ことば・言葉」から、コミュニケーション表現と表現の意図を読み取る、という講義をしています。

それは、実際に「話されたことば」、実際に「文字で書かれた言葉」から、その表現を発した人間の意図を読み解く、というものです。

 

この視点から見ると、22日に行われた宮川泰介さんの記者会見と、23日に行われた内田監督・井上コーチの記者会見、との落差は明瞭にわかります。

まず、宮川泰介さんの会見での発言では、

「監督から『日本代表に行っちゃダメだよ』と言われました」や、

「井上コーチから、『監督に、お前をどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のQBを1プレー目で潰せば出してやると言われた』と言われました」など、

監督やコーチが実際に「話したことば」が、きちんと記述されています。

 

それに対して、内田監督と井上コーチの会見での発言は、

「『相手のQBを1プレー目で潰したら出してやる』とは言っていない」や、

「『相手のQBがけがをして秋の試合に出られなくなったらこっちの得だろう』とは言っていない」とかで、

記者からの、「それでは、何と言ったのですか?」という質問には答えていません。

つまり、内田監督と井上コーチの会見の意図は、宮川さんの発言を否定することが目的であり、自分たちが実際にしゃべった「ことば」の事実確認にはないことが分かります。

どのように取り繕おうとも、内田監督と井上コーチと日大経営陣は、反則行為の責任は解釈間違いをした宮川泰介さんにあるのだ、という論理を展開していることが明らかです。

 

日本の情報化社会の現状を知らない日大人

今日、私は授業の中で、両者の記者会見での発言を比較対照して解析しました。

受講している多くの学生たちは、この問題については皆が強い関心を持っていました。

それは、事件の場が大学という場であること、宮川さんが20歳の大学生であるということ、からして多くの学生たちが親近感と当事者意識を持ってこの事件を見ていることを表しています。

そして、多くの学生たちが、新聞やテレビといったマスメディアからだけではなく、SNSによって、早く詳しく情報を得ているのです。

 

内田監督、ならびに日本大学の関係者諸氏は、現在の日本の情報社会の現状について無知、もしくはなめている、と言うしかありません。

誰が考えたのか、午後8時という会見時間の設定も、これまでのようなマスメディア認識からすれば、最もテレビ生中継されにくい時間を選んだつもりなのでしょうが、SNSの広まっている現状からすれば全く意味をなしていないのです。

 

旧態依然たるメディア感覚は、会見を司会していた人の対応にも表れていました。

あの方が、米倉久邦(よねくらひさくに)という人で、共同通信社論説委員長をして2002年に退社して現在は日大広報部の顧問をしている76歳だ、ということが新聞やテレビよりも早く、ネットを通して世間に知れるのが、今の日本の情報化社会なのです。

あの米倉さんの司会進行ぶりと、その意識がいかに時代遅れのものであるかが、日本大学という組織の現状を露呈してしまいました。

 

それは、米倉さんが、会見を無理やり打ち切って、予定どおりに会見最後の「内田監督と井上コーチの今後」についてを語るところにも表れていました。

「第三者委員会を立ち上げて、その結論が出るまでは謹慎して常務理事を一時停止して、その後は大学の決定にしたがいます」

もっともらしい発言の背後に、自分に都合の良いメンバーを選んで第三者委員会という体裁を整えて、それで禊が済むまではおとなしくしておけば世間は忘れるだろうから、という意図があるくらいは子どもにでもわかります。

さらに内田監督は日大の常務理事であり、「大学の決定」というのも自分の意思を反映させたものに出来うる立場です。

内田前監督と日大経営陣は、世間をなめきっています。

このような人たちが大学という教育機関に携わっていることに驚くばかりです。

 

最大の被害者は日大生

こんな日本大学に、危機管理学部が存在しているとは、もはやギャグでしかありません。

学生諸君に罪はないのですが、残念ながらこれから日大生の諸君は大きな被害をこうむることを覚悟しなければならないでしょう。

現在、就職活動中の日大の学生さんは、エントリーシートに「日本大学・危機管理学部」と書くだけで、相当のビハインドになることを覚悟しておいてください。

それは、新入社員を採用しようとする企業の立場に立てば、自分の会社の危機管理からして当然のことなのです。

日大の学生を新入社員で採ったとして、社外にその社員を紹介するとき、あるいはその社員が営業で社外で自分の経歴を紹介するとき、もしかしたらその社員を採用した会社ごと適切な評価を得られない可能性があるからです。

同程度の志望者のエントリーシートが100枚並んでいるとしたら、企業の採用担当者は、自分の会社のことを考えて選択するのは止むを得ないのです。

だからこそ、最初に書いたように、今、最も声を出さなければならないのは日本大学で教員をしている人たちなのです。

勇気を持って、一人で、日本記者クラブの会見席に出て、同席していた弁護士にも頼らずに堂々と会見をした宮川泰介さんを守るためだけではなく、現在日本大学に籍を置いている学生すべてを守るために、日大の先生たちは頑張らなければならないのです。

 

教育者とは、学識や知識を教える前に、人間としての生き方を教えるべき者でなければならないのです。

今回の、日大アメフト部の問題は、単にひとつのラフプレーを巡る問題にとどまるものではなく、日本の大学教育全体に関わる、とても大きな問題なのだ、と私は考えています。