ええ演出してはりますわぁ!――『99.9 刑事専門弁護士』
テレビドラマの、「日曜劇場」『99.9 刑事専門弁護士 SEASONⅡ最終回』についてです。
リアルタイムでOAを見れなかったので、録画したものを3日遅れで見ました。
これは、上手い!です。
演出が抜群にうまい!です。
木村ひさし氏の演出が随所で冴えていました。
野球にたとえると、球速145キロの直球を軸にして、スゥーッと曲がるスライダー、キュッと喰い込むシュート、ストんと落ちるフォーク、各種の球がピシピシと決まる鮮やかな配球で、2時間SPあっという間に見終えました。
そして、見終えたあと、タバコを1本吸ってから、何か所も見直してしまいました。
テレビ業界で長い間仕事をしてきた人間としては、毎週OAに追われながら番組を作る作業の連続なので、完成度の高い作品を産みだすのがいかに難しいかが良くわかるのですが、これは間違いなく「演出家・木村ひさし」氏のテレビドラマ代表作と言えるでしょう。
ただ褒めているだけでは芸がないので、僕の感心した所を少し詳しく。
テレビドラマという形式の勝利
『99.9 刑事専門弁護士』は、0.1%の可能性に賭けて事実を追求する弁護士たちを描くという、リーガルドラマもの。
ややもすれば、重厚一辺倒になりやすい筋書きを、松潤の「いただきマングース」なんていう軽口と、片桐仁の「明石、はいりまーす」なんていう脇役たちのキャラクターが、軽やかさで救っているドラマです。
で、事件の解明に欠かせないトリックの設定は、あのドラマ・映画『TRICK』の蒔田光治(まきたみつはる)があたっていて脚本が宇田学(うだまなぶ)。
彼らの仕掛けたトリックを見抜くのが、このドラマを見る楽しみの一つであり、解明された事実でもって判決がひっくり返る法廷シーンの爽快さが真骨頂。
とは言いながら、全9話のなかで、「うーん、それはちょっと」と思うものも何回かあったのですが、この最終回は「あー、なるほどぉ、そうくるか」と、僕はとっても良き視聴者になったのでありました。
伏線の設定がうまい、その回収のしかたがうまい。
(まだ見ていない人、少々ネタばれになることをお許しくださいね)
真犯人の特定にいたるヒントの「火災時の携帯画面の映像シーン」なんか、一回目に見た時は「えっ、何が写ってるんだろう」とじっと目を凝らしていたんですが、わかりませんでした。だから、その後の展開も読めませんでした。
全部見た後で、もう一回、その場面の画面を見てもまだよくわからなくて、スロー再生で何回か見てやっとわかったんです。
で、その「キーポイント」となる画面は、わずか0.2秒!
業界用語で言えば、30フレームのうち、5フレーム。
これって、凄い!んです。
何が凄い、って、演出家の根性がスゴイんです。
テレビって、わかりやすくわかりやすく作るのが当たり前とされていて、「番組であって、決して作品ではないんだぞ」と言われ続けてきたんですね。
2時間サスペンスで、始まって20分で犯人がわかる理由はここにあります。
それを、堂々と無視して、しかも後ではしっかりと回収している。
しかも、見事に映像によって、謎を解き明かしているのです。
僕は「テレビドラマ」という形式の、一つの勝利の形だと思います。
鶴瓶の関西弁の威力
さて、演出家の仕掛ける技に応えた俳優たちの演技も見逃してはいけません。
「東京ことば」で展開されるこのドラマに、ただ一人、堂々たる関西弁で話す笑福亭鶴瓶!
鶴瓶扮する裁判官の話す「ええ判決せえよ」の一言が、ややもすれば陳腐な定型に陥りそうな、「裁判官・検察官・弁護士」のトライアングルに絶妙の人間味を与えているのです。
そして、最終回では、「ええ判決させてもらいました」。
それが一抹の良心からきたものか、成り上がりたい上昇志向からきたものなのか、木村演出は、単純な解釈を許さずに視聴者の前に投げ出します。
鶴瓶扮する川上裁判官が、誰も居ない法廷で、ゆっくりと頭(こうべ)を巡らすシーン。
事務総長の椅子にすわって、じんわりと笑う顔、眼鏡の奥で感情の読み取れない目。
鶴瓶さん、ええ芝居、してはりますわ!
そして、川上裁判官の異例の出世を報じている新聞記事の文中には、さりげなく「京都大学法学部卒」と、彼が関西出身で関西弁を使うことの必然性を入れこんでいる、という演出芸の細やかさ。
このあたりが、いいドラマを産み出す演出者たちの力なんですね。
香川照之も、やっぱり芝居巧者ですね。
アジアンの馬場園梓も、とても自然な演技をしてました。
おちゃめな演出も
忘れてならない、演出の小技を。
ちょい役として出てもらうゲストの使い方もうまい、んですね。
新日本プロレスの選手たちの登場はいつものことですが、最終話では、事件解明のヒントになる「横浜ベイスターズ・サヨナラ逆転シーン」のために、ハマの番長・三浦大輔が。
少し偏執的な火災専門家に片桐はいり。
エンディングシーンには前回シリーズレギュラーだった榮倉奈々。
そして、僕が「えっ、ひょっとして」と思ったのは、
エンディングシーンで、次の事件のための被疑者に会いに行った木村文乃弁護士の前に現れた依頼人の地味な女性、
「では、生い立ちからお願いします」「生い立ち?」
「ご出身は?」
「トルコです」
「トルコ?」
「5歳までイスタンブールに居ました」
「イスタンブール?」
わずか、23秒の登場シーン。
僕たちの世代なら誰もが知っているでしょう、あの大ヒット曲「飛んでイスタンブール」の庄野真代さん、その人なのでありました!
ひさしぶりに、民放のドラマで堪能しました。
テレビは、捨てたもんじゃないよね、と僕はしみじみ思ったのであります。