吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

NHK朝ドラ『わろてんか』を、業界人的に楽しんでます!

NHKの朝ドラ『わろてんか』が、終盤にさしかかり、やっと「女興業師・北村てん」の話になってきました。
で、登場する芸人たちが「笑芸・現代史」につながってき始めたので、僕は少し変わった楽しみ方でこの頃ずっと見ています。

それは、『わろてんか』に出てくる芸人たちは誰をモデルにしているのか、そして実際にあったエピソードをどのように翻案・脚色しているのか、を比べながら見るという、いわばちょっと業界人的な見方です。

数日分のOAを見た後で手にするのは、『吉本興業百五年史』
この本、吉本興業の社史編纂部の面々が厖大な資料を数年間かけて編年的にまとめたもので実に優れた「演芸資料本」です。
去年の12月に完成して、一般発売もされているものですが、お値段は1万円超。

個人で買うには、ちょっと高いですが、「お笑い」に関心のある人には絶対のオススメです。
800Pに及ぶ「笑芸」の記述と、貴重な写真の数々。
よく、まぁ、これだけの資料を集めたもんだ、と感心しながら見ています。

僕は、自分が『M-1グランプリ』始め幾つかのお笑い番組をやっていたこともあり、また特別寄稿をしたこともあり、一冊をありがたくいただいたので、それを数十ページずつ読んでいるんです。

で、これを読みながらドラマを見ると色んなことがわかります。
「キース・アサリ」のコンビが「しゃべくり漫才」を形にしてゆくのは、「横山エンタツ花菱アチャコ」のことですね。
着物から洋服への変化、「キミ・ボク」と口語体での呼び合い、日常をテーマにした新しさ。

エンタツアチャコ」の人気を決定づけた「早慶戦」が、ドラマ内では「相撲中継」になっていたのには少し笑ってしまいました。
いやぁ、実録物の脚色はかえって難しいもんだなぁ、と制作者に同情しました。

そして、先週の「ミス・リリコ&シロー」の誕生話。
これは「ミスワカナ・玉松一郎」の翻案ですよね。
おしとやかな美人女性が、しゃべりまくって相方の男をやり込める、という男女コンビ漫才の典型。
今、残っている写真を見ても「ミス・ワカナ」さんは綺麗で可愛い!

これが、後に「ミヤコ蝶々南都雄二」に引き継がれ、現在の「宮川大助・花子」につながるんですよね。

先々週あたりに出てきた「全国大漫才大会」。
見ていて、「あーっ、これって、まさに当時のM-1グランプリじゃん!」と感慨ひとしおでした。
『漫才のてっぺん取ったるわ!』というセリフを聞いた時に、これまで付き合ってきた芸人さんたちの顔が幾つか浮かんできました。


これまでの『わろてんか』は、松阪桃李演じる北村藤吉と、葵わかな演じる北村てん、との夫婦純愛苦労話で僕にはもうひとつ面白くありませんでした。
ドラマ展開のスピード感も乏しく、映像の作りもオーソドックスで、せっかく『ひよっこ』や『あまちゃん』で新風を吹き込んだ朝ドラが先祖帰りしたような残念さに満ちていました。
残る2ケ月の展開に期待したいもんです。


そうそう、もう一つ、とても個人的に嬉しかったことがありました。
それは、「風鳥亭」のたち上げ期に尽力した「怪力の岩さん」のことです。

「岩さん」を演じた役者さんは、岡大介さんと言います。
岡さんは、僕が20代の頃からの40年にわたる古く長い知り合いです。
まだ独身だった僕の新大阪近くのアパートに、数人で集まっては酒を飲んだりカード遊びをしたりした仲間です。
役者として、ホントに地道な苦労を重ねながらもなかなか陽が当たらず、それでも好きな役者を辞めないで今日まで続けて来た「ホントの役者バカ」です。

その彼が、NHKの朝ドラで、いい役をもらいました。
先々週、彼の出番の最後となる場面だったのでしょうか、画面は数秒間「岩さんのアップ」になりました。
多分、演出家の粋なはからい、だったのだと思います。

「大ちゃん、良かったなぁ、役者続けてて良かったなぁ、NHKでアップやでぇ」
その画面を見ながら、僕は不覚にも泣いてしまいました。

「お笑い」もそうです、「役者」もそうです。
産業社会の世間から見たら、何の生産的な物も産み出しはしない営みかも知れません。
ですが、そんな「芸能」が好きでたまらくて人生の情熱を賭ける人間がいるのです。
僕は、そんな「バカ」がたまらなく好きなのです。