吉村誠ブログ「いとをかし」

元朝日放送プロデューサーで元宝塚芸術大学教授の吉村が、いろいろ書きます。

M-1グランプリ――M-1史上最高の面白さ!でした

 12月恒例の「M-1グランプリ」今年は格別に盛り上がりました。

勝戦での最後の審査員投票が「4対3」というのも実に劇的でした。

そして、放送が終わった後も、他のテレビ番組やラジオや週刊誌などでその余熱がいまだに続いていますね。

 

僕も、数日前にはMBSラジオで「笑い飯」の哲夫くんが熱気を込めてしゃべっているのを聞きましたし、今も雑誌「プレイボーイ」でオール巨人さんの「M-1最終決戦で僕が和牛に票を入れたワケ」を読んだところです。

審査員の松ちゃんの「ボクは面白いと思ったなぁ」、上沼恵美子さんの「聞かんといて」、オール巨人さんの誌上コメントと言い、笑芸戦場の最前線にいる人たちの論評は、さすがに的確でオモシロイ。

まるで、直木賞の選評を読んでいるような、一級のコメントでした。

 

島田紳助が「M-1グランプリ」を作った

「M-1」がこんなにも盛り上がるイベントになったことを一番喜んでくれているのは、あの島田紳助さんだと思っています。

「M-1」に関わったすべてのお笑い芸人さん、マネージャーさん、テレビスタッフの皆さん、「M1の今」があるのは島田紳助という優れた一人の芸人の熱意の賜物だ、ということを忘れないで欲しい、と思います。

 

思えば、2000年の春の時点で、「漫才師は闘わないと強くならないんです。強い漫才師を育てるためのイベントを作りたいんです」と言いだした時に、島田紳助の真意を汲み取れる人間は業界にはほとんどいませんでした。

拙著お笑い芸人の言語学にも書きましたが、最初に彼の意図を正しく理解したのが吉本興業谷良一プロデューサー。谷くんは全国規模のスポンサーとして「オートバックス」を口説いて、その店舗空間を使って日本全国からの予選を組み立てて頂上を目指す、というイベントの枠組みを構築しました。

そして、それを「テレビ番組 M-1グランプリ」として番組立てして電波に乗せる、という役割を勤めたのが、僕でした。

当初の社内会議で、営業・編成から「えーっ、漫才の勝ち抜きイベントに賞金が1000万、何考えてんねん」と言われたことを良く覚えています。

大阪の朝日放送の立派なキラーコンテンツになりました。

それどころか「M-1」は日本の笑芸界の最高のコンテンツになりました。

紳助さん、ありがとう!です。

 

 吉村誠の「M-1グランプリ」採点

さて、僕なりに「M-1」出場者の何組かの、ファーストラウンドの採点を書いてみます。

僕の判定基準は「声」と「ことば」です。

「声」とは、大きいか小さいかではなくて、お客さんの身体にちゃんと届く「声」が出せているかどうか、です。

「ことば」とは、お客さんの頭と心にちゃんと届く「ことば」を使えているかどうかです。

その上に「ネタ」や「テクニック」が成立すると僕は考えているからです。

 

「和牛」98点

最終決戦に出るだけあって、10組のレベルはとても高かったのですが、その中で最もしっかりとした「声」で、最も自然な「ことば」でしゃべりが出来ていたのは「和牛」でした。川西君も水田君も、決して大きな声でしゃべくるわけではありませんが、全身を使って「声」を出しているので、最初のひとことから明瞭に聞き取れます。

しかも誰にでもわかる「生活ことば」でネタを展開、既に一流漫才師のしゃべくりになっている、と思います。

特に、一回戦での「ウェディングプランナー」のネタは秀逸で、前半でのプランナーと新婦、後半での新郎と新婦の切り替わりが抜群でした。

あれを決勝戦でやっていたら、と思うのですが、そこがガチンコ勝負の「M-1」の非情さ面白さ、でもあるので仕方ないと言えば仕方ないですね。

 

優勝したとろサーモン」95点

面白いし、声もよく出ているのですが「ことば」に生硬さが時々出るのが僕は気になりました。それはオール巨人さんが指摘したように「北朝鮮」だとか「日馬富士」だとかの生乾きの時事ネタ用語もそうなのですが、根底には宮崎出身の二人が「漫才のための関西弁」に合わせている不自然さと、それを補うために久保田くんがかなり無理してキャラクター作りをしている所にあるのではないか、と思います。

きっと、このあたりが「とろサーモン」の今後の課題となるでしょう。

でも、素直に、「優勝おめでとう!」です。

 

「ミキ」92点

すごい頑張りでしたね。

でも、その「すごく頑張ってるーッ」と見えてしまうことが残念なところです。

僕が思うには、胸から上だけを使って一生懸命に声を張り上げているので、どんなに大きな声でしゃべっても音が拡散して、自分たちが思うほどにはお客さんには届いていないんです。本人も疲れるでしょうし、お客さんにも「ことば」が明瞭には届かないので「うるさい」と感じられてしまいます。

だから逆に声を出さずに身体で「金」や「令」を表現した時に大きな笑いになりましたよね。あれはとっても面白かったです。

彼らのスピード感は若手ならではの魅力でした。

 

「カミナリ」

今回の10組のうちで、関西弁の話者でなかったのは「カミナリ」と「マジカルラブリー」と「ゆにばーす・はら」でした。

その意味もあって、僕は「カミナリ」にはかなり期待をしてたのですが。

竹内くんと石田くんは、茨城県(いばらき)出身の幼馴染みらしいのですが、石田くんがせっかく活き活きとした「茨城なまりのことば」でツッコミを入れているのに対して、ボケの竹内くんの「ことば」が「中途はんぱな標準語」になっている分、弱いんです。

二人の使う「ことば」の落差がネックになっているのではないでしょうか。

キャラクターとしての立ち位置をしっかりさせること、それを踏まえて「しゃべることば」をしっかりさせること、が課題だと思いました。

 

 

いずれにしても、「M-1グランプリ 2017」本当に見ごたえがありました。

テレビを見て久しぶりにワクワク・ドキドキしました。

テレビって、まだまだ素敵なことがたくさん出来るメディアなんですよね。

島田紳助さん、素晴らしい置き土産をありがとう!